ぐるます

Enjoy Math & Science !

PCR検査について知ろう!

こんにちは!
まだ相変わらずまったくの躊躇なく外出することはできない毎日ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。

部屋の窓を閉めているとかなりむっとするようになり、我が家では扇風機が活躍し始めました。しばらく外に出ないうちにいつの間にか夏が近づいているんだなぁ…と感じさせられる今日この頃です。

4月後半から、オンラインという異例の形ではありますが、大学の授業がスタートしています。
一日中パソコンの前に座って講義を見たりレポートを書いたり、しんどいですね。肩・首・背中が凝るわ凝るわ。何より、目への負担がものすごいです。

しかし、この不測の事態で大変な中、私たちが楽しく授業を受けられるように色々工夫してくださる先生もいます。
つらいのは自分だけではないですし、そういった先生方に感謝しつつ、事が収まるまでは自分のペースでコツコツ勉強していくしかないですね。


本題


さて、今回のテーマはタイトルにもある通り。
最近ニュースでよく聞く、PCR検査についてです!

というのは、私が尊敬してやまない、最強に面白い数学ブログを書いている方が先日 (…といっているうちにもうかなり前になってしまいましたが) 病気の検査の陽性陰性についての話を、数学と絡めたとてもわかりやすく興味深い記事を更新されていたんですね。
それに触発され、私もこの毎日嫌というほど耳にする新型コロナウイルスの話題から着想を得た記事が書けないかなぁ、と思ったのです。

その記事というのがこちら:
【数学】「検査で陽性だった人が実際に病気である確率は数%程度」とかいうやつ、何?-アジマティクス
ぜひぜひご一読を。

そこで目についたのがPCR検査です。ウイルスの検出に使う医療技術なのだろう、くらいは想像がついているかと思いますが、みなさん、PCR検査っていったいなんなのか知っていますか?
医学に関しては私は全くの専門外なので、私も正確に理解しているとは到底言えないような知識ではありますが、生物学的な観点から少しお話したいなと思います。

高校生物の知識ゼロから理解してもらえるような記事にする予定ですのでご安心ください。

(※そのため、生物学的に厳密でない表現をときどき使用します。
そのような箇所には脚注 *1 で補足していることがありますが、読まなくても本文を理解するのに差し支えはありません。余裕があればで大丈夫です。)

PCR*2 や遺伝子組み換えをはじめとする、「バイオテクノロジー」 と呼ばれる分野は、私が高校生物においてもっとも好きな分野で、生物嫌いを克服したきっかけと言っても過言ではありません。

そしてちょうど今、高校で生物をとっていなかった (あるいは、好きではなかった) けど、大学で生物が始まって、モチベーションが上がらないなぁ…という人もいるかもしれません。

生物が好きな人にもそうでない人にも、バイオテクノロジーを通して生物の面白さを少しでもお伝えできるよう、張り切ってまいります!


ここから先の流れをざっとまとめておきましょう。

PCR法とは
②予備知識:ウイルスは生物?/ 細菌との違い
PCR法の原理
④数学とのつながり〜指数爆発〜

PCR法とは

私たちの遺伝子 (=DNA) *3 はとってもとっても小さいです。肉眼で見ることはおろか、光学顕微鏡を使っても見ることはできません。超スゴーーイ倍率の電子顕微鏡でも、なかなか厳しいでしょう。
(あ、繊維のようなモヤモヤ〜っとした形でなら、大量に集めて上手いこと取り出せば肉眼でも見えますよ。私は高校の授業で、ブロッコリーのDNAを抽出する実験をさせてもらい、DNAからなる白いモヤを観測したことがあります。見えないというのは、下図のような1本1本の二重らせんが判別できないということです。)

DNAの直径は約2nm (ナノメートル) だそうで、これはなんと!ヒトの髪の毛 (0.08mm) のおよそ4万分の1になります。

これだけ細いのですから、当然、質量もものすごく小さくなります。

ヒトがウイルスに感染しているかどうか、すなわちウイルスの遺伝子をもっているかどうかを検査したいとき、そんなちっぽけなDNA (RNA *4 ) がウイルス由来かどうかなんて、わかるはずがないのです。

PCR法 (Polymerase Chain Reaction method, ポリメラーゼ連鎖反応法) とはズバリ、この小さなDNAを、
増幅して大量にし、解析しやすくする
技術です。


②ウイルスは生物?/ 細菌との違い

これはPCR法と直接関わる話ではなくて少し余談…なのですが、私たちが生きていく上で避けることのできないさまざまな病気に関わることです。みなさんにウイルスについての正しい知識をもっていてほしいなと思ったのでお話します。


突然ですがクイズです!

ウイルスは生物の一種といえるでしょうか、それとも無生物でしょうか?
では、ウイルスとよく混同されるものに細菌がありますが、細菌はどうですか?
そもそも、生物と無生物の境目ってなんだと思いますか?

少し考えてみてください。



先ほど、私はPCR法の説明で、ウイルスの遺伝子をもっているかどうかを…と書きました。そう、ウイルスは遺伝子をもっているんです。
遺伝子をもっているってなんだかだいぶ生物っぽい特徴ですね。



では、正解発表。
ウイルスは、無生物です。
生物と無生物の中間の存在だ!とする考え方が主流ですが、少なくとも、生物ではありません。
そして細菌は、生物です。
生物と無生物の境目についてはこのあと詳しく述べます。


つまり、ウイルスと細菌を間違える人が多いですが、これらは似ているどころか、生物かどうかというこんな根本的なところに違いがあります。

まずウイルスの特徴を見てみましょう。
ウイルスはタンパク質でできた殻の中に、DNAまたはRNAをもった構造をしています。個人的な印象だとRNAをもつもののほうがよく聞きます。

そして、ウイルスは増殖をすることができますが、それは自分の力だけでは決してできません。
標的とした生物の細胞を 「乗っ取る」 ことではじめて増殖ができるのです。

ウイルスが生物の細胞に付着すると

ウイルス自身の遺伝子を細胞内に送り込みます。この時点で、この細胞はウイルスに乗っ取られてしまいました。

細胞は、本来であれば、自身の遺伝子をコピーして増殖したり、その遺伝子をもとにして、生きていくのに必要な物質 (タンパク質など) を合成する能力をもちます。
遺伝子は、タンパク質の設計図の役割をもつからです。

乗っ取られた細胞は、その大事な大事な遺伝子複製能力と、タンパク質合成能力を、ウイルスの遺伝子に対して使わされることになります。
その結果、細胞内でウイルスの遺伝子のコピーがたくさん生み出され、

その遺伝子をもとに、ウイルスの殻であるタンパク質まで作らされます。

最後に、乗っ取った細胞から次世代のウイルスが外に出て (イラストでは細胞が破壊されていますが、破壊せずに出ていく場合もあります)、また新たに乗っ取る細胞を探しにいきます。
こうしてウイルスは、遺伝子を送り込んだだけで何もしていないのに、増殖することに成功するのです。


生物にとってウイルスが害となる理由はここにあります。乗っ取られた細胞は、もう正常の細胞に戻ることはできず、ウイルス生成機と化す運命を辿るしかありません。
こうなってしまうと、ウイルスの増殖を抑えるためにはその細胞を殺すしかないので、ヒト体内では、免疫に関わる細胞たちが発動し、乗っ取られた細胞を攻撃・排除します。
ウイルスそのものではなく、もともとは仲間だった自身の細胞を殺すわけです。悲しいですね…自己防衛のためとはいえ。


さあ、ウイルスが生物といえないのは、上で説明したように、自力で増殖することができないからというのが重要そうです。

ここで、一般的に生物の定義とされている条件を見てみましょう。*5

  1. 体が細胞でできている
  2. 自己複製ができる
  3. 代謝を行う

他にもいくつかあるのですが、主なものはこの3つでしょう。

まず 1. ですが、ウイルスの体はタンパク質でできた殻で、これは細胞とは呼べません。細胞ならば細胞膜 (脂質 *6 からできています) で包まれており、またウイルスは細胞小器官ももっていません。
2. は先ほど説明した通りです。複製は乗っ取った細胞の力でやっているのです。
3. も実は乗っ取った細胞を借りてはじめて行えます (代謝とはエネルギーを使うことで、呼吸や光合成が代表的です) 。

一方、細菌 (大腸菌、乳酸菌、納豆菌、などなど…) *7 は上の条件をすべてみたしているので、生物なのです。


PCR法の原理

それでは、いよいよメインテーマです。
先述のように、PCR法は、DNA内の特定の塩基配列をとにかく増幅したい!という目的で行います。

大まかな手順は以下の通りです。

  1. (PCR法はDNAに対してしか行えないので、増幅したい配列がRNAである場合、同じ配列をもつDNAに変換する 「逆転写」 という操作を行う) *8
  2. 高温条件にして、DNAの2本鎖をほどく
  3. 温度を下げ、プライマー (後ほど説明) をDNAに結合させる
  4. 温度を再び上げ、DNAを伸長させる
  5. 2.〜4.を繰り返す


それでは、詳しく見ていきましょう。

1. RNA → DNA への変換 (必要に応じて)
脚注 8 に書いてある通り、逆転写酵素の力を借ります。


2. 2本鎖をほどいて1本鎖に
DNAの2本鎖は水素結合で結合しています。約95℃に加熱することで、結合を切ることができます。


3. プライマーを結合させる
プライマーとは、ほんの数塩基からなる短いDNA断片またはRNA断片のことです (PCR法で使うのはDNA : 脚注 9 参照) 。

DNAを合成するのはDNAポリメラーゼという名前の酵素です。PCR法の "P" は、この 「ポリメラーゼ」 の略なのでした。
この酵素は、何もないところからは新たな鎖を合成することができず、合成を開始するためには 「足場」 が必要となります。

その足場となるのがプライマー *9 で、増幅したい領域の両端の塩基配列にちょうど結合できるような配列にしておきます (プライマーは任意の配列のものを化学的に合成できます) 。

95℃から温度を下げ、55℃程度にすることで、再び水素結合が形成され、プライマーがDNAに結合できます。



4. DNAを伸長させる
DNAを合成するのは、DNAポリメラーゼという酵素でしたね。

酵素には最適温度というものがあり、私たちヒトがもつ酵素は35〜40℃でよくはたらくので、体温がそれくらいに保たれています。そして、あまりにも高温にすると、酵素は活性を失い (失活といいます) 、もう使い物にならなくなります。
しかし、PCR法には、手順2. で90℃にするプロセスが含まれ、普通の酵素なら失活してしまうはずです。

それでは困ってしまいますね。どうすればよいのでしょう?

地球には、様々な生物が、様々な環境に暮らしています。中には、私たちから見るととてつもなく厳しい条件で暮らしている生物もいます。

ここで、DNAの複製のしくみは全生物で共通であり、DNAポリメラーゼをもつのはヒトだけではありません。DNAの複製をしなければ細胞が分裂できず、生きていけませんからね。

というわけで、超高温の環境で暮らしている生物のDNAポリメラーゼを使うのです!このDNAポリメラーゼなら、高温で失活しないどころか、よくはたらきます。
具体的には、深海の熱水噴出孔などに生息する好熱菌のDNAポリメラーゼを使います。

温度を再び上げて72℃程度にすると、DNAの合成が進んでいきます。これくらいの温度が、好熱菌酵素の最適温度なのでしょう。


こうして、1サイクル目の複製が完了です。


5. 2.〜4.を繰り返す
2サイクル目です。


3サイクル目です。

最初は余計な部分まで含んだDNAが多いですが、繰り返していくとだんだん目的の領域のみの断片の割合が増えていきます。


④数学とのつながり~指数爆発~

さて、先ほどPCR法の3サイクル目までの複製の様子を見てきました。

まれに、DNAにプライマーやDNAポリメラーゼがうまく結合しないなどのトラブルがある可能性はありますが、すべてのDNA鎖があの調子で増えていくと仮定するとどうなるでしょうか。

(※DNAは2本の鎖で1セットですので、この1セットを1本と数えるべきなのですが、ややこしいので、以下、2本鎖の組は 「セット」、それをほどいてできた1本鎖を 「本」 の単位で数えることとします。)


最初は1セット、
1サイクル目で2セット、
2サイクル目で4セット、
3サイクル目で8セット、

もうおわかりですね。
x サイクル目終了直後のDNA断片数[セット] を y とすると

y=2^{x}
が成り立ちます。指数関数ですね。

2¹⁰ = 1024 ≒ 10³ ですので、
2²⁰ = (2¹⁰)² ≒ 10⁶ 、2³⁰ = (2¹⁰)³ ≒ 10⁹ 、…
となり、なんとたったの30サイクルで、10億倍にまで増やすことができます。
10億ってすごい数字ですよね。文字通り、桁違いのスピードで増えていきます。

みなさんは 「指数爆発」 という言葉を聞いたことがありますか?
指数関数が爆発的な増え方をすることからこう呼ばれます。爆発とはどういうことでしょう。


先ほどの式 y=2^{x} のグラフを見てみましょう。

これだけ見ると、そんなに爆発的には見えないですよね。緩やかにさえ見えます。


では、これをもう少しズームにしてみます。

おお、かなり傾きの急なグラフになりましたね。


まだまだ引いてみると…

これはすごいですね。原点でカクンと折れ曲がっているかのようです。

これが指数爆発なんです。
x が負の範囲の y の値はすべて 0 であるかのように見えますが、すべて正の数になっています。左にいけばいくほど限りなく 0 に近づいていきますが、決して 0 に一致したり負になったりすることはありません。
逆にいうと、この関数は x が負の範囲でも常にほんの少しずつ増加している単調増加関数です。少しずつ増加していき x=0 を超えた瞬間急激な増加に変わるのが、まさに爆発という感じです。
ナノレベルのDNAを解析するためには、爆発的に数を増やす必要があるので、指数爆発が起きてくれるのはPCR法にとってとてもありがたいことなわけです。

PCR法の1サイクルは、ほんの5分ほどで終わります。なので、20サイクル繰り返すのには2時間、30サイクルだとしても3時間あれば終わることになります。10億倍にするのにたったの3時間。

しかも、本質的な作業はすべて酵素にお任せしているので、人間側がすることといえば、DNA合成に必要な材料 (ヌクレオチド) の供給と、温度の上げ下げのみです。
90℃ → 55℃ → 72℃ のサイクルをきちんと行えば、短時間で大量のDNA断片が手に入るということですね。

おわりに

さて、PCR法はいかがでしたでしょうか。生体内で日常的に行われているDNA複製を、短いスパンで人工的に再現しているわけですが、私たちの体内の目に見えないところでこんなシステマチックなことが起きているなんてワクワクしませんか。

冒頭でも書きましたが、医学の知識のない人間が書いた文章ですので、もし誤り等あればご指摘願います。

高校生物の知識ゼロで読める!と豪語しましたが、少し難しくなってしまいましたね…。

脚注まで読む気力はないかもしれませんが、脚注 9 のテロメアや岡崎フラグメントあたりの話は私が個人的に特に面白いと思う分野です。脚注のわりに異常に長いのはそのためです。
興味もっていただいた方は是非、詳しく調べてみてくださいね!


私の個人的な意見になりますが、生物学の1番の魅力は、生物ってほんと、よくできてんなぁ!と感じられることです。
今回はDNAの複製プロセスに対しての、よくできてんなぁ!をご紹介しました…この稚拙な文章でそれが伝わったのかはさておき。

意志をもたないタンパク質などに対して使うにはおかしな表現なんですが、そんな賢いやり方どうやったら思いつくの?!って感じるシステムばかりです。いやほんとに。まるでタンパク質が意志をもっているかのような挙動をするんですよ。

それでもって、テロメアのように、そこはもうちょっと上手いことできたのでは…?と思うところがしばしばあるのもまた興味をそそられます。
そういったところは、生物の進化が間違っていたのではなく、私たち人類がまだ生物のミクロ世界のあまりの高度さについていけていないだけなのでは…
というのは私の勝手な想像です。


というわけで、みなさんに少しでも生物学の魅力が伝わっていれば幸いです。
では、今回はこのへんで!






*1:←数字をタップすると文章のもとの場所に戻れる。PCなら、本文中で数字の上にカーソルを置くだけでも読める。

*2:細かな違いだが、生物学的なお話をするため、以後PCR検査ではなくPCR法と呼ぶ。PCR法という手法を使って行う検査のことを文字通りPCR検査という。実際の医療現場で使われるのは検査の目的なので、PCR法という言葉はあまり聞きなじみがないかもしれない。

*3:DNAはデオキシリボ核酸の略。名前の通り酸性の物質で、ヌクレオチドという単量体がつながった高分子化合物である。また遺伝子とは、生体を構成するタンパク質をつくるための設計図のようなもの。 その遺伝子の本体にDNAという物質が使われているということなので、遺伝子=DNA、とすると少し語弊があるのだが、最初はその認識でも問題ないであろう。

*4:RNAはリボ核酸の略。ウイルスの遺伝子はDNAではなくRNAからできている場合がある。遺伝子の本体であるという性質は共通であるが、DNAとRNAには3つの違いがある。 1.DNAは2本鎖、RNAは1本鎖。  2.DNAを構成する4種類の塩基はアデニン、チミン、グアニン、シトシン。一方、RNAを構成する4種類の塩基はチミンの代わりにウラシルが含まれ、他の3つはDNAと同じである。  3.分子内に含まれている糖が、DNAはデオキシリボース、RNAはリボース。

*5:もう少し厳密な言葉を使うと次のようになる : 1.膜 (細胞膜) によって外界と仕切られている  2.遺伝物質をもち、自分自身とほぼ同じ形質の子をつくることができる  3.生命活動のためにエネルギーを利用する

*6:細胞膜はリン脂質という脂質の二重膜からなる。 ところで、みなさんも聞いたことがあると思うが、ヒトの身体の約60%は水からできている。 次に多いのがタンパク質で、20%程度。 そしてその次にくるのはなんと脂肪であり、15%程度といわれる。この数字を見ると、え!私の体脂肪ってそんなに多いの!?と驚くかもしれない。 しかしそうではなく、これは全部で37兆個もあるといわれるヒトの細胞を囲んでいるのがリン脂質だからなのだ。

*7:ちなみに、 「細菌」 と 「菌」 は名前は似ているがまったく別物。本文に例を3つ挙げたが、大腸菌のように、○○菌と呼ばれるものは (酵母菌など例外はあるが) 基本的に細菌であり、菌ではない。なんと紛らわしい…。 菌に含まれる代表的な生物には、カビやキノコがいる。

*8:この操作は、DNAの塩基配列をコピーしたRNAを合成する 「転写」 (←生体内においてと〜っても重要なはたらきである) の逆なので、「逆転写」 と呼ばれる。反応には逆転写酵素という酵素を用い、逆転写によって得られたDNAをcDNAと呼ぶ。また、cDNAを用いて行うPCR法のことを、RT-PCR法 (Reverse Transcription, 逆転写 -PCR法) という。

*9:PCR法で使うプライマーはDNAプライマーであるので、プライマーは足場としてはたらいた後、DNAポリメラーゼが合成した新たな鎖と繋がって、目的のDNAの一部となる。 一方、DNAの複製は生物の体内でも盛んに行われているが、そのときに使われているのはRNAプライマーである。よって、DNAが合成されると、プライマーはRNAなのでそのDNAの一部となることはできない。 色々な事情 (←詳しく知りたい人は「岡崎フラグメント」 で検索) により、DNA合成終了直後、一方の鎖にはRNAプライマーが1個だけ、もう一方の鎖には大量に含まれている。 そのため、合成が終わるとRNAプライマーは取り除かれ、その結果、ところどころ穴のあいたDNAが合成される。 そして、新たにできたDNAを足場としてDNAが合成され、穴が塞がれる。しかし、このとき、上の鎖では左方向 (←) 、下の鎖では右方向 (→) にしか合成できないため、両端だけは足場がなく、塞ぐことができない。 その結果、複製できなかった部分は捨てられてしまう。 よって、DNAは複製のたびに少しずつ短くなってしまう!! そのため、DNAの両端は遺伝情報をもたない塩基配列になっており、これを 「テロメア」 という。 しかし、複製を繰り返してテロメアがなくなってしまえば、これ以上DNAを複製することはできない。これは生物の老化の原因の1つとも考えられ、なんのためにこのようなことが起こるのかは不明である。 PCR法は人工的につくったDNAプライマーを用いることで、このようなことを起こさずに増幅できるのである。