ぐるます

Enjoy Math & Science !

大きい無限と小さい無限

こんにちは。
昼間はまだまだ暑いですが、朝晩がぐっと涼しくなり、過ごしやすい時期になってきましたね。

夏休みが終わりに近づいてきました。高校のときよりずいぶん長いはずが、一瞬で過ぎ去っていきました(笑)

私の大学では後期から一部の科目で念願の対面授業が始まりますが、対面は全体の1割前後で、すべての授業を学校で受けられる日は遠そうな現状です。
後期はかなり期待していたので残念ですが、仕方ないですね。一部の対面授業が認められただけでも進歩ですし、良かったなぁと思います。



さて。
今回は、無限の面白さについてお伝えしたいと思います!


次のクイズを考えてみてください。


【クイズ】
すべての 奇数、整数、有理数、実数、複素数 の個数を比較したとき、正しいのはどれですか?

複素数 a+bi の形で表される数 (  a,\ b は実数、 i虚数単位)
※ 偶数の個数と奇数の個数は同じです (偶=奇)


① 奇<整<有<実<複

② 奇<整<有=実<複

③ 奇=整=有<実<複

④ 奇=整=有<実=複



決まりましたか?


このクイズ、実際にTwitterを用いてアンケートをとってみました。
(数学アカウントではものすごくバイアスがかかってしまうので、別のアカウントでとった結果です。)

母数もそれほど大きくないですし、年齢層も私と同じぐらいの人に偏ってはいますが、投票してくれた人の文系理系や数学の好き嫌いなどはまあまあバラけているかな、といったところです。
①が圧倒的に多いですね。



ここで答えを発表したいと思います。

正解は ④ 奇=整=有<実=複 です!


迷わずに④を選んだ人には、今から書く内容はほとんど既知で面白くないかもしれませんが…

少しでも迷った人、①②③を選んだ人は、これから解説していくので、それでなるほどと思っていただければOKです!




奇数、整数、有理数、実数、複素数は無限に存在します。それなのにその個数を比較せよだなんて、おかしな話に思えるかもしれません。
これは選択肢には入れられなかったのですが、全部無限なのだから、奇=整=有=実=複 なのでは? と思った方もいるでしょう。


まず、この5つの数の間には、皆さんもご存じのように、以下のような包含関係が成り立っているはずです。

これを見ると、奇<整<有<実<複 であるように思えてきます。
実際、こう答えた人が最も多かったですし、直感的には自然な考え方だと思います。特に、整数は奇数の2倍あるだろうと思いますよね?


しかし、答えは 奇<整<有<実<複 ではないのです!!
今は無限集合を考えているというのが最大のポイントになります。


有限集合だと、例えば、1から10までの範囲に存在する数だけを考えると、奇<整 で、整数は奇数のちょうど2倍です (有理数や実数は1から10の区間内だけでも無限にあるので、一旦おいておきましょう)。
私たちは基本的に有限な世界で生きているので、有限集合に関しては、直感は正しかったというわけです。


でも、無限を扱うときには必ずしも直感はあてになりません。そもそも、〜個、と数えることができない世界を無限と呼ぶのに、個数という言葉を使うのは適切か? というとちょっと微妙です。


そこで数学では、無限集合の要素の個数のことを、 「濃度」 という概念で考えます。
言葉のイメージ通り、数がぎゅうぎゅうに詰まっているのか、散らばっていてスカスカなのか、という感じです。


クイズの正解が 奇=整=有<実=複 である理由を、濃度を用いて説明していきます。


大前提として、濃度が等しいとはどういうことか? を定義せねばなりません。

2つの集合の濃度が等しいとは、それぞれの集合の要素が、漏れなくダブりなく 「1対1対応できる」 ことと定義されます。


例えが有限集合になって申し訳ないのですが、集合Aに10人の子供が、集合Bに10人の大人がいるとしましょう。
大人1人と子供1人がペアになって手を繋いだとき、余ってしまう人はいませんよね。なので、AとBの濃度は等しいといえます。
ところが集合Aに子供が11人いたらどうでしょう。子供が1人余ってしまいます。3人組になって手を繋ぐことは許されません。このときAとBの濃度は等しくないことになります。


それでは、順番に見ていきましょう。


(i)奇数=整数 について

整数  x に対して、奇数  2x-1 が対応することにすると

このように、どこまでも手を繋いでいけますよね。余ってしまう数や、2本の手で繋がってしまう数はいませんよね?
というわけで、奇数と整数の濃度は等しくなります。有限集合では、整数は奇数の2倍もあったのに不思議ですね。
同じ原理で、偶数と整数も等しいですし、自然数と整数も等しいです。


(ii) 整数=有理数について

正の整数の濃度と正の有理数の濃度が等しいことを示せば十分ですね。有理数とは、分母が自然数、分子が整数である分数の形で表せる数 (整数を含む) のことでした。

以下のようにすれば、正の整数と正の有理数を1対1対応できます。

横1列の分母はすべて等しく、分子には左から順番に分母と互いに素な自然数のみを選んで並べています (約分できない分数のみを考えるため) 。

こうすると、すべての有理数に、整数の番号を漏れなく割りふることができます。ジグザグと斜めに数えていくのがポイントです!
右に向かって横へ横へ番号をつけていくと、どこまでいっても次の段に折り返せないからです。

有理数0には整数0を、そして負の有理数には上と同様にして負の整数で番号を割りふればよいですね。
これで、整数の番号を付けてもらえない有理数が1つも存在しないことがわかるでしょうか?
整数と有理数の濃度は等しいのです。


(iii) 有理数<実数 について

実数は、有理数無理数を合わせたものです。
今、自然数、整数、有理数の濃度がすべて等しいということがわかったので、もしすべての実数に、自然数の番号を割りふっていけたら、有理数と実数の濃度は等しいといえます。

しかし、それは絶対にできないということが知られています。

無限に整数を用意しても、0から1の間にある実数にすら、番号を漏れなく割りふることは不可能であることがわかっているのです。

その理由をざっくりと説明すると、実数にどれだけ頑張って番号をふっても、それらを番号順に整列させた数列から、新たな (=番号のふられていない) 実数を生み出せてしまうから、です。

具体的に見てみましょう。

自然数と、0から1の範囲 (0は含む、1は含まない) にある実数の濃度が等しいと仮定します。背理法を使います。
適当に実数を並べ、1, 2, 3, …と自然数を割りふっていくとします。
仮定が正しいならば、これを無限に続けることで、すべての実数に自然数を割りふることができます。
割りふりの順番は、重なってさえいなければなんでもよいです。下の画像の実数も、超テキトーなので、順番に意味はありません。

すべてに割りふり終わったら、上の図のように、1番の数から順番に対角線状に数字を選んでいきます。 n 番をつけられた実数の小数第  n 位を選ぶということです。

そして、選ばれた数と異なる数字 (図では+1した数にしていますが、異なればなんでも良いです) を順に繋げていきます。
そうすると、新たな実数 (無限小数になります) ができあがります。この実数を  X としておきます。

ここで、すべての実数には自然数の番号が割りふられていると仮定しているので、 X にも、自然数の番号がついているはずです。

しかし、  X は1番の実数とは1桁目が異なり、2番の実数とは2桁目が異なり、…、 n 番の実数とは  n 桁目が異なります。

つまり、すべての実数に番号をつけたはずの実数リストのどこを探しても、実数  X は見つからないということです。
これは矛盾です。

従って、0から1までの範囲にある実数に自然数を割りふることはできません。
ましてや、すべての実数に割りふることなどできません。

これをカントール対角線論法といいます。

実数の濃度は自然数の濃度、すなわち有理数の濃度より大きいのです。


(iv) 実数=複素数 について

これも驚くべき事実です。実数は数直線 (=実軸) 上にあるすべての点、複素数はそこに虚軸を直交させてできた平面上にあるすべての点に対応します。

実数=複素数というのは、なんと、直線上の点の数と平面上の点の数が同じだといっているのです!
すなわち、1対1対応が可能です。


実数は小数の形で表すことができます。無限小数になることもあります。
複素数は、複素数平面上の点と対応しています。  13+2i なら  (13,\ 2) という点です。複素数と、平面上の点は間違いなく1対1対応しているといえますね。

すべての複素数に実数を漏れなくダブりなく対応させるにはどうすればよいのでしょう?
以下、複素数を平面上の点と同一視します。


例えば、 (13,\ 2) 132 と表すことにすると、 (1,\ 32) (0,\ 132) と区別がつきません。
かといって、 13.2 と表すことにすると、 (1.5,\ 6.2) などの小数を含む点が表せません。


実は、次のようにするとうまくいくのです。例として、無限小数を含む点  \pi + \sqrt 2 i を考えます。
 x 座標と  y 座標を小数で表し、桁を揃えて並べます。どちらも無限に続きます。

 \ \ \color{red} x \ \ =\ \ \color{red} 3 \color{red} .\ \color{red} 1\ \color{red} 4\ \color{red} 1\ \color{red} 5\ \color{red} 9\ \color{red} 2\ \color{red} 6\ \color{red} 5\ \color{red} 3\ \color{red} 5\ \color{red} \cdots

 \ \ \color{blue} y \ \ =\ \ \color{blue} 1 \color{blue} .\ \color{blue} 4\ \color{blue} 1\ \color{blue} 4\ \color{blue} 2\ \color{blue} 1\ \color{blue} 3\ \color{blue} 5\ \color{blue} 6\ \color{blue} 2\ \color{blue} 3\ \color{blue} \cdots

これを、同じ位の数を  \color{red} x \color{blue} y の順に並べて交互に読んでいけば、1つの実数になります。
 \color{red} x \color{blue} y のどちらかが無限小数ならば、生成した実数も無限小数になります。

 \ \ \color{red} 3\ \color{blue} 1\ .\ \color{red} 1\ \color{blue} 4\ \ \color{red} 4\ \color{blue} 1\ \ \color{red} 1\ \color{blue} 4\ \ \color{red} 5\ \color{blue} 2\ \ \color{red} 9\ \color{blue} 1\ \ \color{red} 2\ \color{blue} 3\ \ \color{red} 6\ \color{blue} 5\ \ \color{red} 5\ \color{blue} 6\ \ \color{red} 3\ \color{blue} 2\ \ \color{red} 5\ \color{blue} 3\ \cdots

赤だけ読めば  \color{red} x 、青だけ読めば  \color{blue} y になっていることがわかると思います。


逆に、 20315.384905040801 という実数があったとき、これは
 \ \ x \ = \ 001.340000 \ すなわち  \ 1.34
 \ \ y \ = \ 235.895481
となり、  1.34+235.895481i という複素数に対応します。実部と虚部の桁数が違う場合は  0 で補完すればよいのですね。


これで、平面上のすべての点 (複素数) を直線上のすべての点 (実数) に対応させられたので、実数と複素数の濃度は等しくなります。




以上の結果から、奇=整=有<実=複 が正解でした!



ここから先は余談です。

奇数や自然数、整数、有理数の濃度を  \aleph_0 (アレフゼロ、アレフノート、アレフヌル)、 実数や複素数の濃度を  \aleph_1 (=\aleph) (アレフワン、アレフ) といいます。
右下の数字が大きくなるほど 「大きな無限」 ということになり、自然数の集合は、言うなれば 「最も小さい無限」 ということですね。 可算集合 (可付番集合) ともいいます。
無限には階層があったのです…!

ちなみに、  \aleph_0  \aleph_1 との中間の濃度をもつ集合は存在しないという仮説がカントールによって提唱されており、連続体仮説といいますが、証明も反証もできないことがわかっているそうです。

自然数で漏れなくダブりなく番号がふれる無限集合ならなんでも  \aleph_0 です。素数の集合、平方数の集合、7の倍数の集合…などなど。


無限を扱うとたびたび直感に反する事実に遭遇します。そのため最初は戸惑うし、理解するのも難しいかもしれません。
ですが、それを理解できたときには無限の魅力を感じてもらえるかと思います!

このお話を通して、無限って不思議で面白い!と思っていただけたなら嬉しいです。


それでは、今回はこのへんで。