逆数を掛けると割ったことになるのはなぜ?
小学校のときに習った概念 「分数」 。
計算規則がややこしくて何度も練習しましたよね。
今回は、この分数の計算、特に割り算の話です。
ある数を分数で割るときに行う、「分母と分子をひっくり返して掛ける」 という操作がありますよね。どうしてこれだけで割り算ができてしまうのでしょう?
分母と分子をひっくり返して掛けるだなんて、もはや当たり前すぎて、気にも留めない人も多いのではないかと思いますが、ふとこんな質問をされたときに、きちんと答えることができますか?
当たり前に思うことほど、説明しようとしても意外とできなかったりします。どのように説明したら答えることができるのか考えていきましょう。
まずは、そうですね、いきなり答えを出すのは難しいですから、与えられた問いに対して部分的に答えを出すことはできないのか、と考えるのがひとつの方法です。
考えの道筋をざっと書いておきます。これはあくまでも一例で、私ならこうするというだけの話なので、正解はありません。
①そもそも、割り算とは何なのか?
②掛け算と割り算の関係
③逆数とは何なのか?
④補足 : 単位元のお話
⑤以上を踏まえて、まとめ
①そもそも 「割り算」 って何?
割り算とは、掛け算の逆演算です。それでいて、掛け算の一種であるとも言えます。
一種なのに逆??…おかしな話ですね。
②掛け算と割り算の関係
掛け算と割り算の関係は、足し算と引き算の関係と似ていると私は思うのですが、どうでしょう。
具体的に数字を使って考えます。
という式があるとしましょう。これは見ての通り、引き算です。これは、別の表記で表すことができます。
出てくる数字も計算結果もさっきの式と同じですが、これは引き算でしょうか。足し算と言ったほうがいいような気がしませんか?
このように、引き算というものは、 「負の数の足し算」 に変換することができます。これは引き算が足し算の一種であるという特性によるものです。
そして、このとき足す数というのは、最初に 「引いて」 いた数と、絶対値は同じで符号だけをマイナスに変えた数となっているのはみなさんご存知かと思います。 と は数直線の を基準として 「逆」 の位置にあります。そうです。これは引き算が足し算の逆演算であるから、ですね。
さて、これと同じような関係が、掛け算と割り算にも成り立つのです。同じといっても、そもそも、足し算と掛け算は本質的に違うものなので、関係だけに注目するということです。
という式があったとします。割り算の式です。これを、さっき引き算を足し算で表したように、掛け算で表そうと思ったら、どうすればいいでしょう?
を満たす数、 を探せばいいのですから、一次方程式ですね。両辺を で割りましょう。
これで、割り算を掛け算に変換することができました。
③逆数とは?
この とは、 に対してどんな関係のある数なのでしょうか。足し算のときは、数直線の を基準としたときに逆にある数を足せばよかったのですが、掛け算ではそうはいきません。
ここで、「逆数」 という概念の登場です。
逆数とは、ある数に対して、掛けて になる数のことですよね。これが、掛け算における 「逆」 なのです。
そして、この逆数こそが、分母と分子をひっくり返すという操作の原因となっています。
分数に、分母と分子をひっくり返した分数を掛けると、「約分」 がおきることにより、 しか残りません。整数も、分母を だと考えると分数の一種なので、ここでいう分数は整数も含んでいます。
逆数に関して、
「なぜ逆数は分母と分子をひっくり返した数になるの?」
と聞かれたら、私の答えとしては
「逆数の定義はある数に掛けると になる数で、分母と分子をひっくり返して掛けると約分が起きて になるから」
というものになります。
約分という操作が、分母と分子をひっくり返すという操作の鍵を握っているのです。括線 (分母と分子の間にある線のこと) の上と下に、同じ因数がなければ約分はできません。
よって、約分をするためには、上にある数を下に、下にある数を上に…すなわち分母と分子をひっくり返した数を掛けなければならないのです。
④単位元
引き算を足し算に直すには、「数直線上で ( から見て) 逆の位置にある数」 を足せばよく、
割り算を掛け算に直すには、「逆数」 を掛ければよい、ということがわかりました。
さっきから数直線上で逆にある数だなんて回りくどい書き方をしていますが、数直線上で から見て逆ということは、その つの数を足すと になるということです。
つまり、まとめると
・引き算→足し算 の変換
「ある数 」 を引く
→ 「 と足して になる数」 を足す
・割り算→掛け算 の変換
「ある数 」 で割る
→ 「 と掛けて になる数」 を掛ける
簡潔にまとまりましたが、ここで気になるのが、なぜ足し算は 、掛け算は が重要になってくるのかということです。
これには明確な理由があります。
足し算、引き算、掛け算、割り算の つを合わせて、「四則演算」 と呼びます。この言葉聞いたことある!って人も多いかと思います。基本的な つの 「演算」 ということですね。つまり、これらはすべて 「演算」 であるといえます。
演算には、その演算固有の 「単位元」 というものが存在することが多いです。たんいげん。
単位元とは、ある演算を考えたときに、ある数に対して演算しても必ずもとの数に戻る数で…っと、何を言ってるかわからなくなってきました。
具体的に数字で考えましょう。
まず、足し算の単位元について考えます。引き算は足し算の一種ですから、足し算として考えましょう。
「ある数」 として、例えばそれが であるとします。その数に、 「ある演算」 を行います。ここでは、それは足し算のことですね。
その計算結果が、必ずもとの数に戻る…つまり、 になるとき、何の数を足せばいいのかということです。
はいくらでしょう?簡単ですね。 です。
では、「ある数」 が ではなく、 や や だったら…?
それでも、計算結果がもとの数に戻るという条件を満たすのは、 ですよね。
これで足し算の単位元が求まりました。 です。簡単にいうと、「足しても足しても結果が変わらない数」 ですね!
では、次は掛け算の単位元です。もちろん、割り算も含みます。
足し算の単位元を理解したみなさんなら、具体例を出すまでもないでしょう。
「掛けても掛けても結果が変わらない数」 は?
そう、 です。掛け算の単位元は なのです。
これが、足し算にとって が、掛け算にとって が、なぜ重要なのかという理由になります。
ちなみに、足し算や引き算において、 を、 に対する 「逆元」 、
また掛け算や割り算において、 を、 に対する 「逆元」 といいます。
ある数に対して演算すると 「単位元」 になる数を、その数に対する 「逆元」 というのですね。
⑤まとめ
さあ、グダグダと長い道のりになってしまいました。まだ終わらないの?そろそろ疲れたよ!とお思いかもしれませんね。一気にまとめてしまいましょう。
なぜ分数で割るときには分母と分子をひっくり返して掛ければいいのか?
- 引き算を 「負の数の足し算」 と考えれば足し算に変換できるように、割り算も 「逆数の掛け算」 と考えれば掛け算に変換することができる!
- 逆数とは、分母と分子をひっくり返した数のこと。これは逆数の定義と、約分の関係でどうしてもこうなってしまう。
- ゆえに、「分数の割り算」 は 「分母と分子をひっくり返した数の掛け算」 に変換される!
…いかがでしょう?
いや、算数って本当に難しいですね。たかが算数、されど算数。おそるべし。
分数の割り算について、なんか引っかかるなぁと感じている人のモヤモヤを解消することを目的に書いたはずが…なんかしっくりこない回答になってしまったかもしれません。精進します。
今回、分数の割り算を考えるにあたって、引き算から足し算への変換と、割り算から掛け算への変換というのを、切り口として書いてきました。
引き算と足し算、それから割り算と掛け算というのは、本質的に似ている演算であるので、符号を変えたり、分母と分子をひっくり返したりと、比較的簡単に変換が行えました。
少し余談です。
ここで、「掛け算から足し算への変換」 と、「割り算から引き算への変換」 を考えたものが、高校2年生の数学IIで学習する 「対数」 なのです!
先ほども書きましたが、掛け算と足し算、割り算と引き算というのは、本質的に全く異なる演算なので、変換には複雑な新しい計算規則が必要になってくるというわけなんですね。対数が難しい理由はここにあります。
でも、対数は結局、掛け算から足し算への変換をしているだけなので、そんなに難しく考える必要はないのです。
この記事を通して、なにか疑問を感じたときには、細かく分割してシンプルに考えるのも大事だよということが伝わったのなら幸いです。
それでは、今回はこの辺で!